| 旅に出たくなるような映画や本。それが毎日の私の生活を潤してくれます。 そんな店主のよもやま話・・・。 |
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インド夜想曲 監督:ウォン・カーウァイ 主演:ジャン=ユーグ・アングラード 原作:アントニオ・タブッキ フランス映画 |
| 「これは不眠の本である」という冒頭から始まる原作と同じく、この映画は私にとって「不眠の映画」である。夜、眠りにつく前にこの映画を観ていると、私の心はすぐに遠いインドへと飛んでしまう。 インドを舞台にしたフランス映画であるが、主演のジャン=ユーグ・アングラードは、インドの風景に自然に溶け込み、いついかなる時もスーツに小さなトランクを持ってインドの大地を歩く彼の旅がずっと続いていくことを期待してしまう。 |
| 物語はインドに着いた彼がタクシーでホテルに向かうところから始まる。目的のホテル名をターバンを巻いたシーク教徒の運転手に告げていたにも関らず、、運転手が違う道を走っていることに気が付く。「あんな安くて娼婦だらけのホテルは旦那が行くような所ではない。もっといいホテルに案内しますよ」と、大きなおせっかいと小さな悪巧みでいけしゃあしゃあとまくしたてる運転手。この手のおせっかいはインドを旅する旅行者が一番最初に味わう洗礼とも言うべき困難である。「目的地に向かう」という行為が、このインドではかなりの困難であることを旅行者が一番最初に味あわされる瞬間なのだ。 しかも彼の旅の目的は「インドで失踪した友人を探す」ことである。手がかりは目的地の安ホテルにいる娼婦からの一枚の手紙だけである。この広大で人の洪水であるインドで、消えた友を探すということがどんなに大変なことであるか。 ボンベイ、マドラス、ゴア・・・。行く手に次々と現れる謎の人物、インドの大地を生きる人々に翻弄されながら、彼は消えた友人の幻想を追い求めて南インドをさまよう。 観ている側は混乱する。彼の探している友人はなぜ消えたのか、そしてその友人は本当に存在するのか、彼が探しているのは自分自身なのではないか・・・。暑く蒸した夜の乗り合いバスの中、混みあった車内で彼がかく汗や車内の人いきれが画面の中から伝わってくるようだ。 長い休憩をとる夜行バスの待合所、とても人間とは思えない風貌の奇形の預言者とその弟に出会う。彼らはわずか5ルピーで彼のカルマを占うという。彼の額に触れた預言者は言う。「あなたは仮の姿なので占うことはできない。あなたの魂は別のところにある」と。やはり消えた友人というのは彼自身なのか・・・。 全編を漂うインドの風景は、普通の日常であるのに私達には幻想の中の世界のようで、「友人を探す」というどこか謎解きのミステリー的な要素は、いつしか終わりのないひとつの旅のように思えて、結末を知ることが寂しくもなってくる。けたたましいインドの朝、静寂に包まれた夜、次々と行く手に現れ、静かな旅人を決してほっておいてくれないクセのある人々、全ての風景が私の中のインドでの思い出とも重なる。 一度も登場することなく、彼の口からのみ語られる消えた友人は、いつしか彼自身となり、私達はインドをさまよう彼のひとつの旅の終わりを知る。そして私達自身が彼を追って旅をしていたことを知る。 これを観て南インドを旅したくなった。いつも途中でくじけそうになるインドの旅。しかし長く困難の多い旅も、帰ってみると懐かしい思い出に包まれる。夜行列車の到着を待つ夜のインドのプラットホームで、熱いチャイでもすすりながら、今度はじっくりと原作でも読んでみたい。 |
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